綿くり狂
きっかけは友人から借りた小説。
モノがない時代、ゼンマイの毛を真綿に混ぜて紡いでいたというエピソードがでてきた。
あのゼンマイの毛を!と物語の中の話かと思い、母に話すと聞いたことがあるという。そしてネットでゼンマイ紬を調べてみると、今も普通に存在するようだ。ゼンマイには保湿性や防水効果まであるらしい。
そもそもゼンマイだかワラビだかの区別もつかない私は母に連れられゼンマイ取りへ出かけた。
そうしたら、まあ・・・ まるで動物のような毛をまとっていらっしゃるゼンマイさん。
紡ごうと思うにも納得。
男らしい毛深いゼンマイさん。
毛を剥ぐと脳みそみたいに小さく折りたたまれた葉っぱが・・・
毛もなかなかの量である。
そして知らなかったのだが、この男らしいゼンマイさんはまさに男ゼンマイだった。
食用にするのは大抵女ゼンマイらしい。母曰く、知る人ぞ知るゼンマイ収穫ゾーンにはライバルがいるらしく、女ゼンマイはすでに採られた後で私達が採ったのはほとんど男ゼンマイだったようだ。
そしてそんな時、親戚のおじちゃんが綿花を育てていたらしくたくさん綿花をくれるという。
絹は手元にないので、それでは綿と一緒にゼンマイを紡いでみることに。
綿花は花1つの中にびっくりするくらいたくさんの種が入っている。毛がまとわりついていて、フッワフワで、種を取りだすのが意外と大変。
そんな種と毛を分ける道具が“綿くり機”である。
ある日、祖母の家の物置きをまた掃除していた時に、なんという偶然か綿くり機を発見したのです!
きっと祖父・祖母(父はそんなことをしていた記憶はないと言うので)もしかすると曾祖父・曾祖母の時代に綿花を育てていたのだろう。
少し割れているところがあったけれど、父に直してもらい使えるようになった。
この手前の棒の上に座り固定し、ハンドルを回しながら綿花を差しこんでいくと手前に種が残り、フワフワの毛が後ろに落ちていく。
最初うまくいかず慣れるまでに苦労したが、蜜蝋を塗って滑りをよくした綿くり機はスルスルと進み、ジョリジョリと種から綿毛をはぎ取り、みるみる間に綿毛が吸い込まれていく。
おもしろい。
スルスル ジョリジョリ フワフワが病みつきになり、一晩中でも1日中でも綿くりしていたい衝動にかられた。
あと1つでやめよう、こんなことをしている場合じゃなかったんだったという声が頭をかすめても、手が勝手に綿くり機をまわし、何時間も綿くりし続けてしまった。
ちなみにこれは薄グリーン。種が緑色。茶色い綿花もある。
本当に毛だけを見ていると動物みたいで、植物からこんな繊維がとれるなんて不思議に思えてしまう。
ネコヤナギのような種と柔らかいフワフワの綿をひたすら分け続けている私の横で、紡ぐことに憧れていたらしい母がこれまたひたすらゼンマイとまっ白い綿を紡ぎ続けていた。
少し茶色がかったゼンマイの繊維とまっ白く柔らかい綿がなんともやさしい風合いで、その糸にメロメロのようだ。
母の紡いだゼンマイコットン。自然の恵みから私達の手を経て糸になる。
こんな単純なことに感動の日々である。