鹿児島~奄美大島〈2〉
今回の鹿児島への旅の目的は奄美大島の泥染め。
意外と知らなかったのだけど、奄美大島も与論島も鹿児島なのだそう。
鹿児島から船で奄美へ行くことにしていた。先週から心配していたのは天候。
せっかく島へ行くのだから晴れてほしいなあ・・・と思っていたのに、天気予報は曇り~雨マーク。そして、最悪なことに、出発前の海は大変なシケとなっていた。海辺のヤシの木の葉っぱのなびき方を見ると、覚悟を決めるしかなかった。
予想通り、大きな船なのに立っていられないくらいの揺れが一晩中続いた。拷問のような夜を乗り越え、辿り着いた奄美は穏やかであったかかった。
私達が到着する前日はいつかの台風を思い出すほどのひどい雨だったらしいが、幸いにも私達がいた2日間は晴れてくれたので、本当にラッキーとしか言いようがない。(帰った次の日も雨だったらしい)
初日は丸1日泥染め体験。
これはテーチギ(車輪梅)の木のチップ。
こんな大きな窯で煮出します。
煮だされた後のチップも乾燥され、次の煮出しの時に火にくべられます。またその灰も陶器の釉薬などいろいろな使い道へ生かされていくのです。
このテーチギ(車輪梅)は思った以上に万能染料。
藍が発酵して藍の花を作るように、このテーチギも発酵するのです。そして藍と同じように常温の染液に布や糸を浸すだけで染めつけられる!
これは染めあがった大島紬用の真っ黒の糸。この糸の色こそが泥染めの色とされてきた。この色に至るまでというのは、テーチギ⇔泥染めを80回~100回繰り返されるのだそう。それだからしなやかで堅牢度も良い丈夫な糸に仕上がるのだ。
ここが泥染め場。
何度も何度も泥に浸し、叩いて糸のすみずみまで浸透するようにする。何度も何度も・・・
あまりの忍耐作業に圧倒されていたが、やはり1日でそんな行程を踏めるはずもないので、私達は泥と同じように反応する鉄媒染にて染めさせていただくことに。
大島紬には黒以外はないのだが、染め重ねられるその長い行程の中では、実に多様の色が生まれている。黒以外は本物ではないとされている職人さんの世界では考え難いことのようだが、お世話になった工房の方々はまだまだ未発掘の泥染めの可能性についていろいろお話して下さった。
大島紬、泥染め。
存在は知っていても詳しくは知らないし、私自身ここへ来てみてはじめて、想像を絶するもの作りに驚いた。
着物を基本に発展してきた日本の伝統染織の技術は、今どのように生き残っていくかというのは、各地方、どこでも問題になっている。もちろん染織に限ったことではないのかもしれないが・・・
大島紬はやはり着物でこそ、その価値がある。しかしこの泥染めはもっといろいろなことに発展していけるのではないかと考えておられるようだった。
本当にこのミラクル染料テーチギは、未知なる可能性を秘めた染料だと思った。
こんな淡い色も。
渋い色も。もちろん黒も。
基本は同じ染料からなので、どの色同士を組み合わせても合うし、やはり化学染料では感じられない色の中にあたたかさがある。
作業場から見える畑では一日中おじいとおばあが作業をしていて、裏山を見上げると、ソテツが群生している。とても美しい場所だった。
この島に自生しているテーチギから生まれるこの泥染めは、まさにこの奄美の自然と共にある唯一無二のものなのだと感じた。